|
「送り手の気持ち伝わる」 手書き主義のラジオ番組 4月16日8時21分配信 産経新聞 拡大写真
(写真:産経新聞) ラジオ関西(神戸市)の深夜番組「青春ラジメニア」は、平成元年4月の放送開始から1000回を超える放送回数を重ねるアニメソング番組だ。手書きはがきにこだわり、電子メールのリクエストを原則認めないという、最近では珍しい番組でもある。
「手書きはがきからは送り手の気持ちが伝わってくるが、画一的なフォントで表現されるメールだと、こうはいかない」
そう言うパーソナリティーの岩崎和夫さん(55)は、毎週収録日に出勤すると、まずは届いたはがきの束を手に取ってトランプのように机に並べる。こうして、じっくりとはがきを見ながら、その日の番組構成を考えるのが20年続く習慣だ。
送られたはがきは緻密(ちみつ)なレタリングで書かれていたり、時節のエピソードが書き込まれていたり、丹精込めて書き上げた様子がうかがえる。岩崎さんは「常連さんのはがきは字体や体裁から誰のものか、すぐに分かります」と言い切る。
番組は熱っぽいリクエストあってこそ盛り上がる。岩崎さんは、メール投稿が増えれば増えるほど、熱っぽさが失われてしまうと懸念しているのだ。
最近はインターネットで音楽を手軽にダウンロードする仕組みが浸透する一方、リクエストスタイルの番組は相次いで姿を消している。こだわりの投稿で支えられる番組だけに、投稿内容の質が低下すれば存続の危機に直結しかねない。
■◇■
近年の若者のラジオ離れは深刻だ。かつては深夜放送を聞きながら受験勉強をする中高生も少なくなかったが、今やラジオ自体を持たない人も多い。
NHK放送文化研究所が行った平成17年の国民生活時間調査報告書によると、若年層でラジオを聴く人の割合は、昭和50〜55年をピークに大幅に減少。ラジオの主な聴取層は若年層から高年層に転換している=図。
最盛期は毎週2000通ものはがきが寄せられていた「青春ラジメニア」へのリクエストも、最近は4分の1以下に落ち込んだ。しかも、リクエストの常連客は30代に偏っており、メールになじむ10代からは少ない。
岩崎さんたちは昨年、悩んだ末に採用歴のない“新人さん”限定でメールを解禁した。一度でも採用されると次回からはメールは受け付けないという仕組みだが、手書き主義を守るための苦肉の策だった。
「古い人間といわれるかもしれないが、便利になりすぎるのもどうかと思う。さっと送信できるメールと異なり、はがきの場合、ポストに入れる手間もかかる。そういった面倒くさいプロセスがあってこそ温かみが備わると思うんです」。岩崎さんはこう訴える。
■◇■
ラジオと脳の関係についての研究に携わり「ラジオは脳にきく−頭脳を鍛える生活習慣術」などの著作もある和歌山県立医大の板倉徹教授(63)=脳神経外科=は、岩崎さんの手書きへのこだわりは興味深いと指摘する。「パソコンのキーボード入力よりも手書きの方がきちんと脳を働かせ思考を促す作用がありますからね」。
そもそもラジオ自体が、脳を活性化させて人間の思考を進めるのに非常に効果的な存在だという。
人が情報を得るとき、五感のうち視覚情報が圧倒的なウエートを占める。ラジオは聴覚メディアだが、普段頼っている視覚情報がない分、逆に受け手の想像力を高めるという。
情報があるから考えるのではなく、情報不足を埋め合わせるために脳が活発に働いて考える作業をしているわけだ。ラジオを聴きリクエスト曲を考え、採用してもらうためにどうしたらよいのかと思案し、手書きではがきを書くという一連の作業には、複雑な思考のプロセスが重なっている。
板倉教授が脳の活動の様子を可視化できる光トポグラフィーという検査をしたところ、ゲームの最中より、ラジオを聞いているほうが脳が活性化することが分かった。特によく作用したのはやる気や自己抑制、計画性といった社会性をつかさどる前頭前野だった。
「人間は至れり尽くせりの情報が与えられると、かえって脳は働かない。便利だからと楽をせず、手間をかけることこそが、人が思考を続けていくために、肝心なことなんです」
|